ボンにある安藤由佳子さんの作品

このモニュメントは7名の招待作家で行われたコ ンペで選出されました。公開は2012106日からです。このモニュメントは作曲家ルートヴッヒ・ヴァン・ベートーヴェンが、幼少時代に家族と10年間暮らしたライン川のほとりの住居跡地に立てられたものです。

 

ベートーベンの生涯を調べた書籍によりますと、当初ベートーベン一家はラインガッセ通りのパン屋のフッシャー家の2階を借りて生活しており、少年ルードビッヒはここで日々ピアノの練習に明け暮れていたようです。一家の生活は貧しく、彼の稼ぎが家族を支えていました。通りを行く人々は、その練習の厳しさとは裏腹に、その美しい旋律にしばし足を止め、窓から漏れる音色を楽しんでいたそうです。

 

当時、少年ルードビッヒは屋根裏の窓越しにライン川の向こうに見える山並みを眺めるのが好きだったらしく、夢見心地な彼の様子も記述されています。そんな少年ルードビッヒに安藤さんは特別な机(作業机もしくは譜面台)をプレゼントする事にしたそうです。このモニュメントは、同時代に活躍していた高級家具職人でボン市の近くに工房を持っていたDavid Roentgen氏の「変形可能な斜面机/Pulttisch mit Veraenderungsmoeglichkeiten」から安藤さんがアイデアを得、才能あふれるルードビッヒのために作業面を大幅に拡張したものだそうです。

 

その形体はアコーディオン、五線譜、階段等をイメージ出来るもので、その最上部には窓を設け、彼がいつでも好きなライン川越しの風景を眺められるようにしてあるそうです。机の前には等身大の子供用の椅子を置かれ、その前に壁のように高くそびえる机は当時の彼に課せられて現実を象徴させてあります。


お話のはじまりは、今回の仕事にあたり安藤さんが18世紀にタイムスリップし、感銘を受けたRoentgen氏にコレボレーションを願いしたという架空の設定から始まります。階級のないリベラルな世界を思い描いた未来のルートヴッヒ青年に、当時貴族や王族しか手に入れられなかったRoentgen氏の機能美あふれる家具と階級社会を知らない現代の自由思想の中で育った私のエッセンスを、一足早く幼少のルートヴッヒにプレゼントしたかったそうです。

 

1.9.12 JH