田島 高宏 バイオリニスト

Takahiro Tajima

桐朋学園大学を首席卒業後、札幌交響楽団のコンサートマスターを務め、2004年にドイツへ。フライブルク音楽大学入学、コブレンツのライン州立フィルハーモニー第2コンサートマスターを経て、2008年9月より北西ドイツフィルハーモニー管弦楽団の第1コンサートマスター。

 

これまでに和波孝禧、ライナー・クスマウルらの各氏に師事。第10回日本室内楽コンクール第2位入賞。ソリストとして札幌交響楽団、ハンガリー放送交響楽団と共演。サイトウキネンオーケストラ、服部譲二氏主宰東京アンサンブルに参加。また和波孝禧、土屋美寧子ら各氏とフランク「ピアノ五重奏」を、R.クスマウル、四戸世紀、小林秀子ら各氏とブラームス「クラリネット五重奏」のCDを録音している。

 

札幌交響楽団にてコンサートマスター(以下コンマス) という職を得ながら、ドイツ留学を決意された背景は?

以前より「ヨーロッパで生活してみたい、勉強したい」と思っていました。日本の音大を卒業後、すぐプロのコンマスになり重責を負うことに。取り組む曲はすべて新しく、譜読みも大変でした。そんな中、オーケストラで留学経験のある方々と出会い、のびのび音楽をしているな、たくさん勉強してきたんだろうな、と刺激を受けました。音楽の幅を広げるために、やはり自分も勉強しに行かなければ、と思いました。


ドイツでもコンマスになるのが夢でしたか。

実は、夢という訳ではなかったんです。フライブルク音大を卒業し、最終課程のソリストコースに失敗。進路が決まらない期間が一年ありました。その時に、ドイツで就職したい、出来るなら“経験のあるコンマスに”と。ドイツやスイスでたくさんのオーディションを受け、ビザが切れる一ヶ月前にコブレンツのオーケストラに合格。「ああ、これでドイツに残れるんだ!」と今までに味わったことのない達成感を得ました。その後、現在の北西ドイツフィルハーモニー管弦楽団のコンマスに受かりました。

オーケストラには多くのバイオリン奏者や、他管弦打楽器奏者がいる中で、コンマスは1~3人。どのようなお仕事ですか。

一番最初の合わせ前に「弓の動き(上げ下げ) をどうするか」、きちんと決めることが大切です。そして、他の弦楽器奏者たちで弓の動きを揃える。また指揮者の考えと、演奏者の奏法などをうまく融合できるよう、指揮者とよくコンタクトを取るように努めます(=写真)。ソロとは又違い、オケもとても難しい。聴かなければいけない、見なければいけない楽器がたくさんあります。


北西ドイツフィルハーモニー管弦楽団は、どのようなオーケストラ(以下オケ)ですか。

Herfordヘアフォルトに拠点を置き、デトモルト、パダボルン、ミンデンなどOWL(0stwestfalen-Lippe)という周辺地域の支援によって支えられているオケです。ヘアフォルトはドイツ人さえ知らない人が多い、人口6万人程の町ですが、MARTa という現代美術館もあり文化振興に理解があります。オケには世界16ヶ国から音楽家が集まり、メンバーは仲が良い。ただ実は、去年オケがつぶれそうになってしまったんです。


2012年に支援地域の一部が撤退を表明し、一時は存続の危機になってしまったそうですね。

署名活動や反対運動が起き、存続を望んで私達も街中で演奏しました。そのおかげで、現時点では3年間の存続が保障されることになりました。他の周辺地域にも支援を募っているところです。

 

オケや、田島さんご自身の演奏活動を教えてください。

オケの活動として、ヘアフォルトや周辺の町で定期演奏会、音楽教室で青少年のための演奏会をしたり、スイスやイタリアなどに海外公演へ。また2-3年に一度、近くのミンデンでワーグナーのプロジェクトがあり、一ヶ月間にわたりオペラを上演しています。この催しは大盛況で、とても印象に残っています。オケ仲間と室内楽の作品にも取り組んでいます。ソロより他の楽器と一緒にやるのが、私の喜び。今年の1月には、ピアニストの妻と一緒に、アフリカ北西に浮かぶカナリア諸島でコンサートをしました。日本では八ヶ岳サマーコースにて、師匠である和波先生のアシスタントを務めています。

 

尊敬する音楽家や、好きな作曲家は?

小澤征爾さん。中学の時に彼の本を読み、音楽の道を志そうと決めました。世界一のバイオリン奏者と思うのは、フランク・ペーター・ツィマーマン。好きな作曲家はブラームスやワーグナー。いつかバイロイト音楽祭で弾いてみたいです。

 

ドイツでの暮らしはお好きですか。

私自身カトリックなのですが、教会の鐘が鳴り、自然が豊かで、時間の流れ方が穏やかなのがいいですね。 頻繁に飲み会があるわけでもなく、家でゆっくり落ち着いてご飯を食べられるのが好きです。新鮮な魚が食べられないのが、苦痛ですが。 das Echte という南ドイツのビールが現時点で私のNo.1です(笑)


生まれは仙台、育ちは長野と茨城だとか。その後東京、札幌、フライブルクなどを経て、現在はヘアフォルトですね。また帰ってきたなぁと思われる、第二の故郷はありますか。

いい質問ですね!(笑。少し考えて・・・) ドイツでは、フライブルクかな。そこで過ごしたのはたった3年間でしたが、たまに訪れるとその空気の中に身を置くだけで本当にホッとします。

 

伝えたいこと

機会があれば、是非オケの演奏会へ来て頂きたいです。昨年存続の危機に陥り、この町にオーケストラなんてあったの、という人もいました。この危機をきっかけに、私達団員一人一人の自主性がさらに高まり、演奏レベルも上がってきています。先のワーグナーのオペラは、ドイツの全国紙からも高い評価を頂きました。ただ、この地域があまり知られていないのがとても残念なんです。演奏会に来て、是非お声を掛けて頂きたい。その一声一声が私たちのモチベーションになり、より一層いい演奏に繋がっていくのではないかと思っています。

 

フレンドリーで穏やかな人柄がにじみ出た、真摯に音楽と向き合う演奏家。オケの存続を当サイトも願っています。どうかこれからもがんばってください!ありがとうございました。

 

北西ドイツフィルハーモニー管弦楽団 

http://www.nwd-philharmonie.de/(ドイツ語)

1946年設立.NRW州ヘアフォルトを拠点に、デトモルトなどOWL地域で活動を行うオーケストラ。98~06年、上岡敏之氏が総監督を務める。現指揮者はユージン・ツィガーン。シーズン中、多くのコンサートが企画されている。

2013年3月取材

02.05.2013 AY